先日、deco+の店舗に初めて遠方よりご来店されたF様。どうやら、2月挙式予定のご新婦のお母さま、とのこと。
「かつて、私が32年前に使用した造花ブーケを一部利用し、来月挙式予定の愛娘にサプライズとして贈りたい」
という主旨でのご来店でした。
F様(お母さま)が紙袋からおもむろに取り出されたのは、なんともノスタルジックな懐かしい造花ブーケ。オーガンジーやチュール素材の造花ブーケパーツで作られている時空を超えたオーラものでした。持ち手には、懐かしい12㎜幅の金リボンを長めにループされた華やかなもの。
このブーケは、お母さまが32年間ずっと押し入れの奥に収めていたため、メインのお花は日焼けによる色あせなどはない状態でした。しかしながら、ケースには入れていなかったせいか埃が少し目立つ程度。
完全なアートフラワー素材ですから、どうしても製作上に使用される糊の影響だろうと思われる一部変色している個所もありました。
32年前使用されたメインのローズはオーロラがかったオーガンジー素材、ほんのりピンク色。そこにはゴールドラインが入っている、絶対今どき見れないレアもの。満開バージョンと少しつぼみの大小2サイズが使われていました。
少し濃い目のピンクの小花は、しっかりと立体的なつくりのもの。中のペップ(軸)は少し折れ曲がっていましたが、非常に頑丈なつくりのものでした。
最小花のアートフラワーは、径1㎝程度の紙製のもので、製作時の糊の影響が非常に大きく色あせや紙が剥げている箇所が多くみられています。花びらもワイヤーから取れていました。
リーフの造花パーツは、上部には完全な硬チュールにグリッターを塗られていて、茎部のワイヤーを挟んでいます。ワイヤー茎部の下部は非常に柔らかいレース素材。要は茎部ワイヤーが丸見えの状態です。
持ち手を確認しますと、完全な色褪せた懐かしいレースを10枚程度でセキュアリングメソッドされた穴埋め的な仕様のものが配置済。
全体的には、全ての茎にワイヤーが入っているせいか、紙袋に入る適度なサイズにグニャグニャと曲げられていて、なんとなくブーケだっただろうなぁ的な感覚で見れるもの。
お母さま:「このブーケのメインのローズを使ってね、サプライズで前撮り時に愛娘へ持たせてやりたいんです!!」(と早口でおっしゃりながら、スマホで衣裳のお写真を出そうと指でスマホを撫でまくってます)
私、正直顔が引き攣るぐらいの衝撃が走りました。(素敵な真っ白なウェディングドレスのお写真を凝視しながら)
へ?
こっ、これを?
いやいやいやいや、あり得ない!無理無理無理無理!
絶対、新婦暴れるでしょ。
さすがに、ここはご新婦さまの心境を考慮して説得しました。
私:「お母さま、お気持ちは察しますが、このブーケはピンクのお色のローズブーケですから白いウェディングドレスのお衣裳と一緒だと少し無理かと。加えてサプライズって、ご新婦さまはかなり動揺されると想定されますが。」
すかさずお母さまは次の衣裳のお写真を私に提示されます。
お母さま:「じゃあ、この和装のバージョンで使えないですか?」
全体的に少し落ち着いたお色と柄の打掛のお写真を拝見し、これならリペア(改修)し、現在のアーティフィシャルフラワー(造花)と組み合わせブーケをリメイクする承諾をした次第です。
さて、次の問題。ん?前撮りでサプライズ?
前撮りだとサプライズでもなんでもないんだけどなぁ~。
私:「お母さま、この件についてブライダルプランナーさんと事前の確認はできていますか?」
お母さま:「大丈夫だと思うけど。じゃあ、今ここでプランナーさんに確認してみます。」
という具合でお電話されますと、案の定「サプライズ演出は前撮りでなく挙式当日でないと意味がない」との見解でしたので、本番当日のサプライズということになりました。
もともと、ブーケ持ち込みの場合「持込み料金」を婚礼会場から請求されるケースがあります。婚礼会場の契約されたお花屋さん以外の持ち込みする場合です。ブーケ持ち込み自体を禁止している会場もあるのだとか。
ここはきちんと事前の確認が必要です!婚礼会場からの事前の見積り金額には絶対記載されていませんから。
すべての確認が完了したので、しっかりとお母さまの意向とご指示を伺いお預かりしました。
実際、お預かりして手にしたブーケを確認しますと、私は大感激&感動の嵐でした。
なんと、この手法は昔ながらのベーシックテクニカルで完璧な出来栄えです。
きっとお花の先生クラスのレベルの方が、心を込めてお作りされたものでしょう。
曲がったワイヤーを1本1本すべて正しく展開し直すと、きちんと元の位置に帰り、正規のキャスケードブーケで元通りの姿に。
すべてのワイヤリング、テーピングの技術は最高峰でした。特にジョイントと呼ばれる支点は全くのズレもなく、文句のつけようがない!(きっとこれは高価なブーケだったでしょうね)
確かに時間が経過していますから、色あせなどの風化は致し方ないにしろ、この作品の価値をお母さまの気持ちと重なり非常に貴重なものと改めて実感させられました。
かつてこのブーケを手にしたお母さまの結婚生活の今までご苦労や楽しい思い出がしっかり詰まった、この時間の経過をブーケが物語っているようで感慨深くリペア(改修)という貴重な体験をさせていただくことに感謝の気持ちでいっぱいでした。
さて、次回はお母さまからお預かりしたママ造花ブーケをリペアした過程などを追記してゆきます。